ある猫の話

 

その猫は昔 飼い猫だった・・・

 

 

夫婦と3人の子供たちが暮らす ごく普通の家庭に飼われ

 

 

猫は 小さな子供達に可愛がられ

 

 

毎日無邪気に遊んでもらっていた・・・

 

 

じゃれては撫でられ 抱いてもらった・・・

 

 

猫は その度に幸せで喉をゴロゴロと鳴らした・・・

 

 

 

 

やがて年月は過ぎ

 

 

子供達は巣立ちゆき 猫も年老いていた・・・

 

 

今はもう遊んでくれる子供達も居ない・・・

 

 

子供達の両親も年を取り 日々の暮らしに疲れ切っていた・・・

 

 

猫はただ毎日袋から取り出した同じ食事を惰性でもらうだけ・・・

 

 

撫でてもらう事も まして抱いてもらう事も今は無くなっていた・・・

 

 

老いた父親は 毎日不機嫌な顔をして家にいる・・・

 

 

そして酒を飲んでは大声を出し 決まって猫に八つ当たりした・・・

 

 

猫は毎日ビクビクとして 大声が聞こえる度に姿を隠した・・・

 

 

居場所が・・・なかった・・・

 

 

もう この家の何処にも・・・

 

 

 

 

ある日 突然 猫は姿を消した・・・

 

 

そして二度と帰る事はなかった・・・

 

 

 

 

その家の日常は 何事もなかったように何も変わらず

 

 

いつも通りに流れていった・・・

 

 

 

 

家から遠く離れた 草木が繁茂する所に 猫は居た・・・

 

 

老いた猫は野良猫との争いには逃げるしかなく

 

 

逃げて逃げて・・・いつの間にか飼われていた家も遠くなっていた・・・

 

 

身の危険を感じた時は茂る草木の中へ身を潜め

 

 

気持ちの良い天気の時は 花に寄る蝶や虫を追い自由に遊んだ・・・

 

 

ネズミを捕り虫も食べた・・・

 

 

目は鋭く輝き 飼い猫の時とは違っていた・・・

 

 

猫は 飼われていた家へ戻ろうとはしなかった・・・

 

 

誰一人 猫を探す者もいなかった・・・

 

 

 

 

疲れ果てると茂る萩の中に老いた身を隠し 猫は眠る・・・

 

 

深く茂った萩の枝葉は老猫の身体を包むように守ってくれた・・・

 

 

草のベッドはしっとりと柔らかく心地よかった・・・

 

 

風が枝葉の隙間から吹きそよぎ 老猫の毛を撫でてゆく・・・

 

 

老猫は夢を見ていた・・・

 

 

昔 飼われていた頃の夢・・・

 

 

子供達に可愛がられ いつも身体を撫でて貰った頃の夢・・・

 

 

夢を見ながら 老猫の喉はゴロゴロと鳴っていた・・・

 

 

眠りの中で老猫は幸せに満ち 幸せな思いが更に老猫の眠りを深くした・・・

 

 

茂る萩の枝葉が心地良い風に少し・・・ 揺れていた・・・

 

 

 

 

どうか身体を濡らす雨よ 降らないで・・・

 

 

苦しみの嵐よ どうか吹き荒れないで・・・

 

 

静かで安らかな眠りを下さい・・・

 

 

この年老いた野良猫に・・・

 

 

 

 

 

読んで下さって有難うございます。

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