八月は蘇りの時節

 

真夏の暑さに勢いを増したアカシアの木々の枝葉が

 

 

川面を覆い尽くしていた…

 

 

光を奪われた川が 薄暗い影の中を

 

 

滔々(とうとう)と流れている

 

 

 

八月…

 

 

何かが蠢(うごめ)く気配がする

 

 

暑い陽射しと息苦しいくらいの湿気を含んだ空気の中で

 

 

全ての生命が狂ったように勢いを増し

 

 

見えない何かが蠢(うごめ)きだす

 

 

 

ざわざわ… ざわざわ…

 

 

八月は蘇りの時節

 

 

亡き人達の魂がこの世へやってくる

 

 

75年前

 

 

原爆で一瞬にして消え去った人々がいた

 

 

否応(いやおう)もなく全てを御国の為と 捧げて散った人々もいた

 

 

恐怖とひもじさの中で震えながら息絶えた人々もいた

 

 

炎の中で叫びながら焼かれて死んだ罪なき子達もいた

 

 

蒸し暑い熱気の立ち込めるこの時節に

 

 

地獄が確かに現実だった時が

 

 

この国にあったのだ…

 

 

 

 

戦後75年が過ぎた今

 

 

時の流れは平和な時代へと場面を変え

 

 

私達それぞれの命は 自らの選択で自由に生きることが出来る

 

 

話したい事を話し

 

 

食べたいものを味わい

 

 

愛する者を愛おしみながら

 

 

自らの人生を選択し歩むことの出来る幸せ

 

 

 

忘れてはいけない

 

 

忘れてはいけない

 

 

今こうして私達が当り前に生きている日々は

 

 

地獄の中で命を失った人々の心底焦がれた願いだったという事を…

 

 

今生きるこの場所が地獄だった時があった事実を…

 

 

その地獄で失われた多くの犠牲の上に今の平和が培われた事を…

 

 

 

ざわざわ…

 

ざわざわ…

 

 

蒸し暑い熱気のこもった風がアカシアの枝葉を揺らす

 

 

亡き人々の魂が 勢いを増す真夏の木々や虫達を依り代にして

 

 

この世に蘇る

 

 

 

八月…

 

 

この世を生きる今の私に出来る事

 

 

生きたかった亡き人々の生きられなかった人生を

 

 

自らの生きる姿で見せる事

 

 

この命を思う存分 亡き人の分まで力一杯生きる事

 

 

それは地獄の最中(さなか)で無残にも生きる事を奪われた人々が

 

 

心底焦がれ続ける未練だと思うから

 

 

姿こそ見えずとも いつの日も共に笑い共に泣き

 

 

共に生きていると思うから…

 

 

 

 

 

 

 

 

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