M・S氏のお話

ツバメ巣立ち雛

貴方は淡々と自分の人生を 心のままに

 

少しの曇りも感じさせない真っすぐな視線で

 

私に静かに語って下さった…

 

何の装飾も 嘘偽りも無い貴方の言葉は

 

心の奥から直接語り掛けてくるようだった…

 

年老いて こんなに真っすぐに人生を語れる人を 私は知らない…

 

自分の欲を捨て 貧しい家を継いで生きる事を選んだ貴方…

 

そんな貴方の言葉は 静かでとても優しい

 

 

 

「兄弟が12人いてね… 貧乏な借金だらけの家だった

 

戦争を挟んで食べるものも儘ならなくて 俺は栄養が足らず身体が小さかった

 

こんなにデカくなったのはね 15歳で働くようになってから

 

貰った給料を全部食い物につぎ込んだからさ (笑)

 

 

俺は長男でね 沢山居た兄弟はみんな家を出た

 

ホントは俺も家を出て 自由に思うように人生を生きてみたかったよ

 

 

仕事に就いてから何度も転勤の話が来たけどね

 

その度 親に行かないでくれと泣きつかれて行けなかった

 

転勤しなけりゃ出世も出来ず 給料も上がらない…

 

そういう時代だったんだよ…。

 

だから行きたかったんだけどね…

 

兄弟に相談しても誰も力になってはくれなかったし

 

親に行くなと泣かれたら そりゃあ親置いて行けないよね

 

 

俺は泣いた… 泣いて諦めた

 

 

それからずっと俺は家に留(とど)まって 仕事も40年間勤めあげたよ

 

 

こんな俺に良い嫁なんか来るはずないと思ってたけど

 

それでも来てくれた嫁さんには感謝してる… 有難かったよ

 

70年連れ添った… けど先に逝ってしまった… 寂しいもんだ… 」

 

 

 

貴方は話をしながら 涙の滲んだ目を向こう側へ反らした

 

 

90歳を過ぎて尚 貴方の心は純朴で心優しい

 

私は何だか とても綺麗な宝石を見た気がした

 

 

 

 

 

 

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