辺(あた)りは一面花びらの海・・・

 

桃色の満開の時を過ぎた里桜・・・里桜・・・

 

 

花風に静かに花は揺すられて

 

 

もう花の盛りは終わったよと告げられる・・・

 

 

桃色の花びらがひらひらと風の中で踊って落ちる・・・

 

 

差し伸べた手の平に一片(ひとひら)ふわりと舞い下りた

満開の花の盛りの栄華の欠片(かけら)・・・

 

 

はらはらと・・・

 

 

ひらひらと・・・

 

 

辺(あた)りは一面花びらの海・・・

 

 

 

 

地面に降り積もった花びらが

 

 

春霞の細かい粒子にしっとり濡れて 眠るように鎮まっている・・・

 

 

枝先で華やかに咲き誇り 鳥や虫達が集った賑わいも

 

 

見る者の目を奪う艶(あで)やかに咲き誇った姿も

 

 

全ては跡形もなく過ぎてしまった・・・

 

 

それでも色を失わずに伏す花びらよ・・・

 

 

ひらひらと・・・ 美しき頃の名残をその色に止(とど)め

 

 

はらはらと・・・ 最後の舞を魅せながら 地に降り積もる・・・

 

 

伏してもなお 美しく地を桃色に染めつくす里桜・・・

 

 

花びらに留(とど)まるその桃色は 花だった頃の栄華の記憶・・・

 

 

里桜・・・ 里桜・・・

 

 

地に伏して朽ちるまで 桃色の花の時の夢を見る・・・

 

 

花風に揺すられて一片(ひとひら) 又一片(ひとひら)と

 

 

終わりゆく美しき花の儚さよ・・・

 

 

里桜・・・ 里桜・・・

 

 

ひらひらと・・・

 

 

はらはらと・・・

 

 

そして 辺(あた)りは一面花びらの海・・・海・・・

 

 

 

 

 

 

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ある猫の話

 

その猫は昔 飼い猫だった・・・

 

 

夫婦と3人の子供たちが暮らす ごく普通の家庭に飼われ

 

 

猫は 小さな子供達に可愛がられ

 

 

毎日無邪気に遊んでもらっていた・・・

 

 

じゃれては撫でられ 抱いてもらった・・・

 

 

猫は その度に幸せで喉をゴロゴロと鳴らした・・・

 

 

 

 

やがて年月は過ぎ

 

 

子供達は巣立ちゆき 猫も年老いていた・・・

 

 

今はもう遊んでくれる子供達も居ない・・・

 

 

子供達の両親も年を取り 日々の暮らしに疲れ切っていた・・・

 

 

猫はただ毎日袋から取り出した同じ食事を惰性でもらうだけ・・・

 

 

撫でてもらう事も まして抱いてもらう事も今は無くなっていた・・・

 

 

老いた父親は 毎日不機嫌な顔をして家にいる・・・

 

 

そして酒を飲んでは大声を出し 決まって猫に八つ当たりした・・・

 

 

猫は毎日ビクビクとして 大声が聞こえる度に姿を隠した・・・

 

 

居場所が・・・なかった・・・

 

 

もう この家の何処にも・・・

 

 

 

 

ある日 突然 猫は姿を消した・・・

 

 

そして二度と帰る事はなかった・・・

 

 

 

 

その家の日常は 何事もなかったように何も変わらず

 

 

いつも通りに流れていった・・・

 

 

 

 

家から遠く離れた 草木が繁茂する所に 猫は居た・・・

 

 

老いた猫は野良猫との争いには逃げるしかなく

 

 

逃げて逃げて・・・いつの間にか飼われていた家も遠くなっていた・・・

 

 

身の危険を感じた時は茂る草木の中へ身を潜め

 

 

気持ちの良い天気の時は 花に寄る蝶や虫を追い自由に遊んだ・・・

 

 

ネズミを捕り虫も食べた・・・

 

 

目は鋭く輝き 飼い猫の時とは違っていた・・・

 

 

猫は 飼われていた家へ戻ろうとはしなかった・・・

 

 

誰一人 猫を探す者もいなかった・・・

 

 

 

 

疲れ果てると茂る萩の中に老いた身を隠し 猫は眠る・・・

 

 

深く茂った萩の枝葉は老猫の身体を包むように守ってくれた・・・

 

 

草のベッドはしっとりと柔らかく心地よかった・・・

 

 

風が枝葉の隙間から吹きそよぎ 老猫の毛を撫でてゆく・・・

 

 

老猫は夢を見ていた・・・

 

 

昔 飼われていた頃の夢・・・

 

 

子供達に可愛がられ いつも身体を撫でて貰った頃の夢・・・

 

 

夢を見ながら 老猫の喉はゴロゴロと鳴っていた・・・

 

 

眠りの中で老猫は幸せに満ち 幸せな思いが更に老猫の眠りを深くした・・・

 

 

茂る萩の枝葉が心地良い風に少し・・・ 揺れていた・・・

 

 

 

 

どうか身体を濡らす雨よ 降らないで・・・

 

 

苦しみの嵐よ どうか吹き荒れないで・・・

 

 

静かで安らかな眠りを下さい・・・

 

 

この年老いた野良猫に・・・

 

 

 

 

 

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味の記憶

 

ふと・・・

 

 

 

煮麺(にゅうめん)が何故か無性に食べたくなる時がある・・・

 

 

 

そういう時は 干しシイタケを水で戻して 鍋に湯を沸かし

 

 

 

昔あなたがしていた記憶を辿って作ってみる・・・

 

 

 

食べたいのは あなたの作ったあの煮麺の味・・・

 

 

 

あの味に出会いたい!

 

 

 

あの味に満たされたい!

 

 

 

記憶の中のあなたを真似て作るけど

 

 

 

何故かいつも何かが違う・・・

 

 

 

あなたの作る煮麺は身体中が美味しいと言った・・・

 

 

 

シイタケの香りが頭の先まで届いていた・・・

 

 

 

もう一度あの時の味に出会いたい・・・

 

 

 

あの時のように身体中が満たされたい・・・

 

 

 

同じように作っても あなたの味とは何かが違う私の煮麺・・・

 

 

 

口は満たされても身体中には届かない・・・

 

 

 

何故だろう・・・何が違うんだろう・・・

 

 

 

違うのは 作っているのがあなたじゃないという事・・・

 

 

 

きっとあの煮麺の味は あなただけの味なんだ・・・

 

 

 

大好きなあなたが作ってくれたものだから・・・

 

 

 

きっと あなたが大好きと思う気持ちで食べたから

心も身体も満たされたんだ・・・

 

 

 

陽だまりで母猫の体温を感じて眠る子猫みたいに

 

 

 

あなたの愛に包まれながら

 

 

 

きっと私は あなたの愛を食べていたんだ・・・

 

 

 

 

 

 

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命のタイマー

 

カチカチ・・・

 

 

カチカチ・・・

 

 

 

時計の秒針が淡々と針を先へと進めて行くよ・・・

 

 

 

カチカチ・・・

 

 

カチカチ・・・

 

 

 

その音は限られた命の時間が 少しずつ少しずつ減っていく音・・・

 

 

 

カチカチ・・・

 

 

カチカチ・・・

 

 

 

気付かないくらいゆっくりと

 

 

時は命の時間を奪って行くよ・・・

 

 

 

いつの間にか若かった時代も過ぎ去って

 

 

気付いた頃には老いていて

 

 

命ある時間も残り僅(わず)かになっていた・・・

 

 

 

カチカチ・・・

 

 

カチカチ・・・

 

 

 

淡々と時計の針は少しずつ少しずつ

 

 

気付かぬくらいにゆっくりと

 

 

残り少なくなった命の時間を

 

 

容赦なく奪って行くよ・・・

 

 

 

まだまだ やりたい事は一杯あるのにと

 

 

今頃になって慌てふためき

 

 

悔いる事の多さに気づく・・・

 

 

 

カチカチ・・・

 

 

カチカチ・・・

 

 

 

したい事が出来るのは今のうち・・・

 

 

心残りの一つ一つを満たしたい・・・

 

 

最後の最後まで 思い切り心弾けて満たしてゆきたい・・・

 

 

 

カチカチ・・・

 

 

カチカチ・・・

 

 

カチカチ・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

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巡る想いの随(まにま)に・・・

 

巡る想いの随(まにま)に

 

 

 

グラスの中で琥珀色したウイスキーの波が揺れるよ・・・

 

 

 

何故だか 涙が一滴(ひとしずく)頬をつたうよ・・・

 

 

 

琥珀色に染まった優しい記憶が 私を泣かすよ・・・

 

 

 

悲しみでもなく・・・

 

 

 

苦しみでもなく・・・

 

 

 

只 切ない程に恋しくて・・・それは郷愁にも似た想い・・・

 

 

 

 

 

ウイスキーは 長い時を琥珀色の中に閉じ込めているから・・・

 

 

 

陽に透ける新緑の美しさも

 

 

 

鳥たちの大気に響く囀(さえず)りも

 

 

 

小川の透き通った潺(せせらぎ)の音も

 

 

 

ありとあらゆる 生きとし生けるものの

 

 

 

愛しさも・・・ 悲しみも・・・

 

 

 

喜びも・・・ 苦しみも・・・

 

 

 

歌声も・・・ 囁(ささや)きも・・・

 

 

 

その琥珀色に閉じ込められた全ての時が

 

 

 

今 身体の中で一斉に 弾けるように解き放たれて話し出すから・・・

 

 

 

 

 

悲しみでもなく・・・

 

 

 

苦しみでもなく・・・

 

 

 

只 切ない程に恋しい想い・・・

 

 

 

過去の ありとあらゆる全てを 只 愛しいものに変えてゆき

 

 

 

なにか 暖かく優しいものに包まれるような安らかな想い・・・

 

 

 

 

 

琥珀色に染まった時間は

 

 

 

過ぎ去りし日々への恋しさと 切なさを呼び覚まし

 

 

 

そんな私を 抱きしめるように

 

 

 

泣きたくなる程 只 優しくて・・・

 

 

 

 

 

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